更新が10か月ほど滞っていました。自身の論文執筆などでこちらの筆が進んでいませんでした。
本日はもやもや病の遺伝子異常に関する話題です。
もやもや病の遺伝子異常は?
2011年に、もやもや病疾患感受性遺伝子としてRNF213 variantが同定されました。これは東アジア集団で多くみられる遺伝子異常なので、必然的にこの遺伝子のミスセンスがあればもやもや病の発症リスクが高くなります。
しかし、今までは「もやもや病の方では、この遺伝子異常よくあるよね。」程度の認識でした。しかし、最近では研究が進んできたためこの遺伝子異常がもやもや病に与える影響というのがわかってきました。
もやもや病における遺伝子異常とは?
もやもや病の遺伝子異常というのは、正確には( p.Arg4810Lys )という遺伝子異常です。4810番目の遺伝子配列がずれているという認識がわかりやすいかと思います。
日本人のもやもや病の患者さまでは約8割がこの遺伝子異常を有しているといわれています。
では、この遺伝子異常があるとどういった臨床的意義があるのでしょうか。
RNF213 Arg4810Lys variantを有する方の臨床的特徴
他の遺伝子異常の方に比べると発症年齢が遅く、脳梗塞がすくないという結果がでています(1)。上記以外の遺伝子異常があると重症化しやすいとの結果が出たということです。重症の乳児発症のもやもや病では、rareな遺伝子異常が報告される傾向があるようです。
RNF213 Arg4810Lys variantは重症度を測るマーカーとなるか?
この遺伝子異常がホモ接合である場合、ヘテロ接合であるときよりも幼少発症で重篤化することが報告されており、重症もやもや病へのバイオマーカーとなる可能性が示唆されています。
また、この遺伝子異常は間接バイパス後の良好な側副血行路の成長と関連したとの中国の報告も見られています(2)。
遺伝子の同定は、最終的に治療を目的にする
上記遺伝子異常がもやもや病にどういった影響があるかというのがこの10年で解明されてきました。
これらの研究は、最終的に遺伝子治療薬による完治を目指す研究につながっていくはずです。現時点では有効な遺伝子治療薬などの報告はありません。これは私の私見ですが、血管の脱落の進行を止める遺伝子治療薬や、側副血行路の発達を促すような作用薬などがあればもやもや病は手術などをせずとも治療できるようになるのではないかと考えています。今のところ、側副血行路を抑制する抗腫瘍薬(アバスチンといいます)は実用化されているので、理論的には可能でしょうが、癌の発生などがやはりもんだいになってくるでしょうか。。
今回は、少しお話がむずかしくなってしまいすいません。また、もやもや病の研究がアップデートされてきたら報告させていただきます。それでは今回はこのくらいで。
(1) Hara s et al, J Neurosurg Pediatr 29: 48-56, 2022
(2) Xue Y et al, Stroke 53: 2906-2916, 2022